
東京都心と箱根を結ぶ小田急ロマンスカー。小田急電鉄の"顔"であり、多くの鉄道ファンから熱心な支持を集める特急列車です。私はこのフラッグシップとも言える新型車両の設計を担当しました。
配属されたのは、新入社員研修が終わって間もない8月のこと。小田急ロマンスカーの新型車両(60000形 MSE)プロジェクトに、運転室の艤装(ぎそう)設計担当者として参加することになったのです。艤装設計というのは、電車の機器の配置設計やその配線・配管設計を行うこと。それまでも当社は小田急ロマンスカー(50000形 VSE)の設計を手がけており、その実績をもとに大きな期待を受けて始まったプロジェクトでした。そして新型車両だけに様々な新しい試みが採り入れられており、仕様決定にも2年という長い時間がかかることになったのです。
例えば、視界の問題です。
60000形は小田急ロマンスカーとして、初めて東京都心の地下鉄に相互乗り入れすることになっていました。乗客が前面展望を楽しめるように、地下鉄乗り入れの際も客室との間にカーテンを引くことなく走行できるようにし、運転台も乗客の視界を確保するために低くしたのです。車両の前面形状が流線形だったので、客室の明かりがガラスに映りこまず実現できたことですが、これによってお客様が電車に乗る楽しみは倍増したことと思います。とても大変な仕事ではあったけれど、入社1年目からこれほど大きなプロジェクトに参加できたことは、大きな誇りです。

設計の際には、ユーザーである運転士や車掌の意見も十分に反映させる必要があります。しかし、設計上、すべてをかなえることは不可能です。そこで、ご意見を聞きつつも、なぜ実現できないかを十分に説明し、代案をあげて納得してもらうというプロセスを踏む必要があります。
相手は車両の取り扱いに関してはプロですが、設計のプロではありません。そうした方に納得いただけるように説明することの難しさを、ここで学ぶことができました。
また、小田急電鉄だけでなく、乗り入れ先の東京メトロ(地下鉄)の運転士、車掌にも運転室の操作性を確認してもらう必要がありました。そこで原寸大のモックアップ(模型)を用意。皆さんに運転室に入っていただき、機器の視認性や操作性、移住性、乗客の視界などを確認していただきました。
運転室には、通常あまり使われない黒色の塗装を使い、照明にも昼光色を採用していたので、これらも確認いただけたのは、とても助かりました。

こうして誕生した花形車両の60000形。小田急ロマンスカーとして営業運転開始後は大きな評判を集め、私としても自分の子どもがほめられているようで、胸を張りたくなります。
その次に取り組んだのが、米国向けと香港向けという海外車両のプレゼンテーション。ニュージャージー向けの車両は最初にお客さんの仕様書として厚さ5cmのA4ファイルを渡され、「これを読むのか!」と驚きました(笑)。英語ですからね。当然、アメリカの法律に合った提案をしなければなりませんし、国内案件と異なり、海外案件はシステム設計から部品選定まで全てを車両メーカーで選定する必要があり、モーターも何もかもこちらで決めなければならず、準備に5ヵ月間かかりました。香港向けの車両も3ヵ月くらいかかりましたね。
海外案件の難しさは、製造、使用方法ともにお客様の国の文化に合わせなければいけないということです。また、企画・見積りを進めるにあたって折衝はつきものですから、言葉の壁を超えた交渉力も必要です。ただ、海外案件を経験して私自身の視野が海外の部品メーカーにも広がったので、今後は国内の案件にも適したものがあれば、海外メーカーの部品を柔軟に使っていきたいと思います。一つ仕事をするたびに、自分の世界が広がって楽しいです。
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